医療・介護・福祉現場の生産性の向上、AI&RPA活用のための「業務プロセス標準化」に重い腰を上げることができるか

2018年09月11日

現在、政府は「生産性革命」を掲げ、生産性向上に向けた各種の政策を展開している。そうした中で、日本の労働生産性が国際的にみてどのあたりに位置しているのかを明らかにすることを目的に、昨年12月に公益財団法人日本生産性本部は「労働生産性の国際比較 2017 年版」を発表した。それによると、OECD データに基づく2016 年の日本の時間当たり労働生産性(就業 1 時間当たり付加価値) は、46.0 ドル(4,694 円/購買力平価(PPP)換算)。米国の 3 分の 2 の水準にあたり、順位は OECD 加盟 35 カ国中 20 位だった。名目ベースでみると、前年度から 1.2%上昇したものの、 順位に変動はなかった。主要先進 7 カ国でみると、データが取得可能な 1970 年以降、最下位の状況が続いているというから驚きである。 
2016 年の日本の 1 人当たり労働生産性(就業者 1 人当たり付加価値)は、81,777 ドル(834 万 円)。英国(88,427 ドル)やカナダ(88,359 ドル)をやや下回るものの、ニュージーランド(74,327 ドル)を上回る水準で、順位でみると OECD 加盟 35 カ国中 21 位となっている。 


約50年間の間、日本の労働生産性の向上に、全くなんら変化がないというデータを目の当たりにしたときに、感じるのは、日本人のDNA日本的組織の「変化を避けようとする空気」である。誰がどのように考えても、組織の目的の達成や、一人一人の個の構成員にとって望ましい、適切な考え方・手法・判断であっても「変革を嫌う空気」の存在は忌むべき我々日本人のDNAの宿痾である。民間法人がこの「変革を嫌う空気」の言いなりになり続けると持続可能経営に赤信号が灯ることになる。「働き方改革」は誰もが賛同し、総論賛成だが、具体的に進めようとするとそれぞれ「各論反対」となる。

介護や福祉は特に生産性の向上や効率性の実現の旗頭を振ることはタブー視されてきた。そして今、介護人材の人手不足は絶望的な未来となった。もはや「各論反対」の選択肢はないだろう。AIやRPA(ビジネス・プロセス・オートメーション)の活用・導入成功の前提は、直接処遇であれ、間接業務であれ、「業務プロセスの標準化」が必要である。もちろん、AIやRPA(ビジネス・プロセス・オートメーション)の導入を決断することで、前準備として「業務プロセスの標準化」を開始するという例もある。

RPA(ビジネス・プロセス・オートメーション)導入による自動化の推進の本質は、職員がより付加価値の高い業務へ就き、法人全体の価値を高め、ムリ・ムラ・ムダを泣くすることにある。RPA導入にあたっては「対象業務」「法人内の体制」「RPAツール」の順番で検討していく。「とりあえずRPAを導入する」ことが自己目的化し、運用を続けられなくなるケースが多いとされるが、「手間が多い工程を改善する」「ロボット化を機に、業務の属人化を解消する」など、検討の始めに、なるべく自法人がRPAで目指すゴールを明確化するのが理想といえる。そのために通常は「業務プロセスのy棚卸」から始めるのが一般的である。ただし、法人によっては、あえて対象業務は決めずに「とりあえず」導入し、小規模なテストを重ねながら自法人にとっての有効性を探っていくアプローチもありうる。「部分的なロボット化で現場に余裕が出てきたところで、本格的な検討に取り組む」という考え方である。また、ロボット導入の「対象業務」については、選ぶ際に全自動化を目指す必要はなく、6割程度を自動化できればよいとされる。0か100かではなく、効率性を向上できるパート、削減できるパートを徐々に増やして行くことが成功の道だからである。例えば「RPAで作業時間を削減したい」という目的で、具体的には「受信メールに添付されているExcelファイルの内容に応じ、法人内システムへ情報を入力する作業」を自動化したいというタスクがある場合、分析した結果、もっとも時間を要していたのは入力作業ではなく、前段階でExcelファイルをチェックする工程だったことが分かり、入力は手作業のまま、チェック作業のみロボットに置き換える方針としたところ、それだけで従来の作業時間から7割の削減を見込むことができたというケースがある。

介護など直接処遇プロセスの場合、個別支援が基本だから「業務プロセスの標準化」にはなじまないとする主張がある。

「標準化すると画一的なプロセスになるので、わが施設では意味がない、わが施設では標準化は無理だ」という大きな誤解である。標準化の意味は、ビジネスプロセスの種類によって異なる。作業系プロセスに対する標準化はすべてを規定して画一化することである。  しかし、営業や製品開発などの意思決定系プロセスに対する標準化は、画一的にすることではない。意思決定系プロセスは非定型なため、もともと画一的に規定できるものではないからである。しかし、プロセスの一部、特に判断や行動などの業務ルール(ビジネスルール)は標準化することができる。残りの部分は、やはり個人の能力と経験に依存することになる。

標準化には3つのパターンがある。標準化には、全体の「底上げ」の効果がある。標準化によって、「個人の能力と経験」がより生きることになるす。

1.標準がない

  この場合は、全て個人の能力と経験任せになる。上位の20%の優秀なメンバに負荷が集中して疲弊してしまう。その他の80%は「野放し」状態である。ただ「頑張れ」では、何をどのようにすれば良いのか。

2.汎用的な標準を利用

  流通している汎用的な標準、たとえばプロセス参照モデルなどを利用する場合。ただし、汎用的なものを自分に合わせて活用するのは、一定の応用能力が必要となる。したがって、中位60%のメンバのある程度での底上げの効果があるが、やはり一定の限界がある。しかし、この汎用標準、あるいはその利用経験は、次のプラクティスの準備となる。

3.自組織のベスト・プラクティスの開発と利用

  自法人の中のベスト・プラクティスを開発して組織的に利用する場合。ベスト・プラクティスとは、「ある結果を得るのに最も効率のよい技法・手法・プロセス」のことで、経験則だけでなく、これを科学的に開発する。このベスト・プラクティスによって、中位60%のメンバを大幅に底上げできるという効果がある。このベスト・プラクティスの利用を通じてバージョンアップすることで、介護の質、プロセスの質向上力が次第に上がっていくことになる。

このベスト・プラクティス=科学的裏付けのある介護とすることがこれから必要になっていく。