科学的裏付けに基づいた介護データーベース「Chase」と 「健康寿命の延伸」という名の国策

2019年11月05日

厚生労働省老健局は、令和元年7月16日に、「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会取りまとめ」(以下、「取りまとめ」という。)を公表している。平成28年秋頃の「要介護度改善にディスインセンティブ、改善の取り組みを市内事業所はディスインセンティブ」という政府の未来投資会議によるセンセーショナルな提言により、業界団体や職能団体から猛反発をされたにも関わらず、平成26年5月30日設置の「内閣人事局制度」の威光により、棚上げも塩漬けにもならず、生き延びているのが科学的介護に係る政策である。しかし、我が国の業界団体や職能団体を神経質に配慮する習慣・カルチャーにより、非常に神経を尖らせながら進めている印象を受ける。「取りまとめ」に、こんな表現がある。

「科学的介護を推進していくにあたっては、介護保険制度が関係者の理解を前提とした共助の理念に基づく仕組みであることを踏まえつつ、様々な関係者の 価値判断を尊重して検討を行っていくことが重要である。」あたかも、医師・看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・介護支援専門員・社会福祉士等々の職能団体やサービス別業界団体の意向や意見を踏まえた上で、同意を取らなければ決められないとの叫びのようである。

また、このような表現もある。

「平成12年に開始された介護保険制度は、単に介護を要する高齢者の身の回りの世話をするというだけではなく、高齢者の尊厳を保持し、自立した日常生活を支援することを理念とした制度であり、利用者のニーズに対応して多様なサービス類型が用意され、また個々の類型の中で、独自の工夫を行っている事業者も多いが、そのアウトカム等について、科学的な検証に裏付けられた客観的な情報が十分に得られているとまではいえない状況である。」

 

ということで、

ユマニチュードやその他国内で元々存在する身体的再自立支援に資する介護理論をそのまま飲み込むような見せ方はしないのでご了承くださいということになっている。「アウトカム等について、科学的な検証に裏付けられた客観的な情報」としているが、日本国内の医学関係の学会で体系として認めていないという意味だろう。それをもって客観性がないと判断するしかないということである。(感情的な判断による場合も往往にしてあるが。)しかし、何はともあれ、科学的裏付けに基づいた介護の導入は、安倍内閣の閣議決定内容であり適当なことを行うことは許されないことから、様々な手練手管の調整が行われていると思われる。一例が、なるべく悟られないように、いつの間にやら、「要介護度の軽減・重度化防止のアウトカム」評価から、「要介護度の軽減・重度化防止のアウトカムにつながるプロセスへの取り組み」を評価する〜にすり替えられているところである。これは、自民党政務調査会データヘルス推進特命委員会科学的介護等WG提言(2019/6/1)の中では次のように変化している。

「介護報酬において、広くアウトカムに結びつくプロセス評価を重視すべき。 」このことからも、プロセス評価をちりばめながら、アウトカム志向を探っていくのが日本の介護保険制度を司る厚生労働省の姿勢なのだろう。

「取りまとめ」によるChaseの中身を見ていくと、「目的に応じた項目」として、加算の算定を行う場合には入力をせよとの表現の項目が列挙されている。2021年度介護報酬改定以降は、例えば特別養護老人ホームで言えば、①自立支援型介護の学びも導入もないため、Chase入力のレベルに達しないため加算の算定が不能な特養、②身体的再自立はスローガンだけで実際の成果が出るまで研究・実践していないが、加算算定のために無理やりプロセスの取り組みを入力する特養、③
自立支援型介護の基礎知識、理論を学び、実践を全施設的に他職種連携で行い、成果も事例検討で確認される中で、Chaseの入力も行える特養の3つに分かれるところから始まるのかもしれない。

 

このように、国内の介護保険制度における厚生労働省の考え方は、業界団体と職能団体を後ろ盾として、精緻に臆病に科学的介護を進めていくわけであるが、同じ我が国でも、経済産業省系の「自立支援」の捉え方、提示の仕方はシンプルである。経済産業省は、目が国外に向いているからだろうか。アジア健康構想の流れでは、面倒くさい話は存在していないようである。ダイエットしたいときに医療機関のダイエット外来に相談に行くのか、ライザップに行くのかくらいのシンプルな話である。

アジア健康構想によりアジア諸国に発信されている「日本式介護」のプレゼン内容は、身体的再自立を目指した「自立支援型介護」の説明となっており、身体的再自立がなければ、生活の質は保てないと言い切っているところが興味深い。老年医学の観点で経済産業省関係の協議資料で様々な有意な示唆を示しているのが、東京都健康長寿医療センター循環器内科/高齢者健康増進センター 杉江正光氏である。同氏による「自立支援」の解釈・説明は素人にも理解が容易な内容といえる。(図1、2、3、4、5参照)

 

日本国内の業界では身体的再自立にこだわる考え方は、生活の質の視点がない〜との論調がメジャーなようだが、職能団体やサービス別業界団体の幾つかの「自立支援」の説明は、素人・国民には理解が困難であり、そもそも、夢も希望もない。重度化するのは自然の摂理だからそれっきりだけど、何かの希望は叶えてあげるよ、改善したって短期間だから意味がないよねって・・・。

ともあれ、日本国内での重要政策課題は、「健康寿命の延伸」である。国がやりたい本音は、明らかである。そして、当事者である団塊の世代の人たちは、どちらの自立支援を選択したいのだろうか?市場がそれを選択することだろう。