国連の「持続可能な開発目標」(SDGs) に対応した株式会社三菱総合研究所による2019年度版「イノベーションによる解決が期待される社会課題一覧 」リストを繙く

2019年09月24日

2015年9月、国連総会において、SDGsが採択されて以降、各国政府、日本政府、地方自治体や企業、非営利団体や大学などで、SDGs(エスディジーズ)に関する様々な取り組みが展開されている。SDGsとは、Sustainable Development Goalsという英語にイニシャルの略称で、「持続可能な開発目標」と訳される。

この17の目標のもと、SDGsには169もの「ターゲット」が作られている。この169のターゲットには、世界の「こうなりたい、こうなるのだ」という内容が詳細に書き込まれている。しかし、そもそも、SDGsはなぜ必要とされているのか?それは世界共通の目標なしに各国や企業が行動すると、世界的な課題やが十分なスピードで解消されることが困難となり、世界の状況がますます悪化し、ゆくゆくは人間の生活そのものが脅かされることなる、安全・安心で平和な世界とは程遠い状態となることを強く懸念されているからであるとされている。これまでの人間による経済活動により生じた課題は、多種多様で深刻な影響を引き起こしている。人間による経済活動には、個人、業界、地域、個々の企業・法人、政府・官僚・政治家等の全ての階層が含まれている。企業・法人におけるポイントは、今までのとおり、経営者が、「利益重視」、「供給者視点の狭小な思想・信条」、「理念なき経営」、「波風立てないことだけを重視した行政判断」で好きなように振る舞うと、それがかえって経営リスクとしてブーメランのように経営者に、為政者に、官僚に跳ね返ってくるかもしれないというリスク認識である。そのような中、近年、多くの経営者がSDGsを気にかけ始めている。その理由は、SDGsが、①新たな事業開発や既存事業の拡大につながりそうである、②新たな人材獲得のための武器になりそうだ、③社会とのコミュニケーショツールとして有効である、という3つの魅力を感じているとされている。①の新規事業の開発や既存事業の拡大とは、利益を増加させる原動力としての期待であり、SDGsの定義に基づいて、SDGsに貢献するような事業で利益を生み出す法人となれば、社会的課題への関心が高い人、仕事を通じた社会への貢献意欲の強い人、権利擁護を大切に思う人、国際的に通用する仕事を望む人などからの関心を生み、新規の雇用戦略として大変有効であるということになるかもしれない。さて、そこでSDGsと「介護」との関係性はどうであるのかを考えてみる。SDGsのターゲットを眺めてみると、「介護」という単語は一つしか見当たらない。高齢者への介護への取り組みは、SDGs達成には貢献しないのであろうか。高齢者介護とSDGsの関係性については視点を変える必要がある。日本政府は、2016 年 12 月 22 日 SDGs 推進本部にて「日本 〜持続可能な開発目標(SDGs)実施指針 」を決定した。その中では、「健康・長寿の達成」に関連する国内の施策の一つとして、「ニッポン一億総活躍プラン」が示され、以下が引用されている。「介護をしながら仕事が続けることができる“介護離職ゼロ”という明確な目標を掲げ、現役世代の“安心”を確保する社会保障制度へと改革を進めることにより、希望する介護サービスを利用でき、介護に不安なく取り組め、介護と仕事を両立でき、健康を長い間維持するなど安心して生活できる社会を創りあげる」。これを見ると、高齢者が安心して生活できる社会環境や環境づくりといった取り組みを推進することで、より良い高齢者介護の実現に貢献しますと解釈することが可能である。

SDGsの達成に企業が取り組みやすいように、株式会社三菱総合研究所では、昨年に引き続き、2019年度版の「イノベーションによる 解決が期待される 社会課題一覧」を公表した。その中に、「社会課題一覧表」という内容があり、さらに介護に直結する「ウェルネス」分野の課題が明記されている。

この「社会課題一覧表」では、SDGsでは明確に表現されていなかった内容が、同研究所の判断により、あえて含まれていることに刮目する必要がある、それは「自立維持が困難な高齢者の増加」である。

(図3)「SDGsとの対応」には、SDGsとの関連性が作図されているが、その日本特有に必要とされ記載されている「自立維持が困難な高齢者の増加」に関しては、当然に「対応するSDGsターゲット」は白紙となっている。課題は「認知症予防と自立サポートの手段充実」となっている。

SDGsに「自立維持が困難な高齢者の増加」に触れられていない要因はいくつか考えられる。一つはフランスをはじめ欧米が高齢社会になっていくまでに100年以上の時を要している国があるなど長い年月をかかっている国が多い。そして医療の方が高齢者の廃用症候群を回避する考え方による短期間での退院とリハビリ前置が常識化していたり、フランス発の専門的認知症ケアの「ユマニチュード」の普及推進による中重度高齢者の「身体的再自立」がQOLの訴求の前提となっているため、あえて触れるという考え方にはならなかったのではないか。我が国では、中重度の高齢者の身体的再自立を目標にすること自体が「高齢者のQOLを考慮していない」という考え方が主流を占めている。そのため、厚生労働省は「科学的裏付けに基づいた介護(Chace)」のデータベースづくりに孤軍奮闘している。

さて、SDGsの達成は民間団体、民間企業の活力が社会に大きな影響を与えることを示している。戦後の農業人口60%を数%に減らしたのは、官僚や政治家のリーダシップではなかった。民間企業の発展・台頭による自然発生的な若い世代の離農による成功である。昭和40年代の流通業の生産性向上と効率化実現も官僚や政治家は何も手を打たず、逆に「大店法」で邪魔をし、「パパママストア」を守ろうとしたが、セブン・イレブン・ジャパン前会長の鈴木敏文氏の経営手腕からことが始まりコンビニエンスストアは空前のブームとなり、現在では「パパママストア」はコンビニエンスストアのFCとなって効率性と生産性も向上が実現した。これも民間の力。宅配流通も同様である。国が動かなくとも、国民を味方につける方法で介護のパラダイムシフトは起こせる。なぜなら介護で困っている国民は当たり前だがものすごく多いからからである。

大切なことは、団塊の世代とそのご家族に、「見える化」をすることかもしれない。「不適切ケア」があなたの親御さんを重度化させることを教えてあげるのだ。介護職の専門性と真の実力は、「中重度高齢者の健康を回復させる技術」であるという考え方もあれば、「安静介護・お世話型介護」こそが高齢者の自立に資するのだという考え方もあり、二元論になっていることを教えるのだ。素人に「社会的自立」だの「精神的な自立」だのお伝えしてピントこない(だけではなくこの考え方は障害者総合支援法に定義される障害者における自立の重要ポイントであり、高齢者に紐づけるのは異端である)。方法は無限にある。欧米の常識・ユマニチュードの常識(=二本足歩行の再獲得は介護の専門性)は、日本では介護業界内の一部からの攻撃対象であることも可視化・教えてあげよう。「自立支援介護(=全ての身体的再自立をもたらす理論に基づいた介護)」特養と「自己実現介護」特養の流派の違いをラベリングすれば良いのである。大切なことは両方の流儀・思想・理念を国民にわかりやすく提示することである。業界が騒がなくとも、あとは国民が決めることである。