特別養護老人ホームにおける介護職新規雇用・介護職定着戦略の王道

2019年03月08日

「地域共生社会・ポスト成長時代における社会福祉法人の「公的福祉+民間福祉」経営戦略」

第3回 特別養護老人ホームにおける介護職新規雇用・介護職定着戦略の王道

前回において、「特養における人員確保の困難さを乗り越えなければ未来はない。そのため、地域において、職員の新規採用及び職員の定着率の向上のための特養経営上の圧倒的な差別化の武器を持たなくてはならない。」とのポイントに言及した。「特養経営上の圧倒的な差別化の武器」は何が考えられるだろうか?  昨年の話になるが、平成30年11月3日に2002年当時、厚生労働省老健局長で、2005年に社会・援護局長、さらにその後、2010年には内閣官房社会保障改革担当室長を務め、現在は、一般社団法人医療介護福祉政策研究フォーラム理事長の中村秀一氏が、秋の叙勲において瑞宝中綬章を受賞された。その中村氏は、やはり昨年、老人ホーム検索Webサイト「みんなの介護」のインタビュー記事において、大変意義深くかつ、興味深い発言をした。それは、「2003年に指摘した介護の問題は、「自立支援」と「在宅の重視」ですが、15年経ってもこの課題が全く変わっていないことに驚かされます。」とのコメントである。

実は、介護保険法が施行された後の最初の3年後の平成15(2003) 年度介護報酬改定(まさに、中村氏が老健局長時代である)では、確かに「自立支援」の言葉が強調されている。そしてその後次第に印象が薄くなっていっている。そんな中、突然変異的に平成30年度介護報酬改定では、突然「自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの展開」が先祖返りにように強調されたわけである。これは、首相官邸の意向であることは周知の事実である。

厚生労働省は、「介護の質」という表現で平成18年度から約10年間にわたって、介護におけるアウトカム評価について議論検討は継続してきたが、10年も話し合って出た結論が、「できない理由」、「やらない理由」の4大項目である。その内容では「介護サービスについては、どのような内容をアウトカム評価の項目として設定すべきかの判断が、社会的・文化的価値観の違いや個人の人生観や思想信条の相違に左右されることから、評価項目の設定につうてコンセンサスを得ることが困難である」からやらないなどと大変表現は美しい。高齢者自立に関する権利擁護の考え方について個人や業界団体において見解の相違があるということなのだろう。 このような議論のための議論の末に上手に塩漬けになりそうだった「介護の質の評価」については、社会的・文化的価値観の違いや個人(業界団体?)の思想信条の相違があるので、介護について科学的裏付けに基づいた介護については制度・政策的には触らないこととしていたのが、首相官邸「未来投資会議」における議論展開により天地がひっくり返ったわけである。

安倍首相は、平成30年10月の未来投資会議の席上、前述した中村氏のコメントとリンクするような発言をしている。 「・・・随分前から議論されたことでありまして、20年前くらいに私は自民党の社会部会長というものをやっておりまして、これを提言したのですが、今日までそのままになったのですが、やっとこれをいよいよ実際に実現できる時を迎えている。また、そうしなければならない、こう思っているところでございますので・・・。」 首相官邸による「未来投資戦略2017」及び「未来投資戦略2018」において「科学的裏付けに基づいた介護」、いわゆる「自立支援介護」、(筆者は、我が国において今まで「自立支援」の言葉の解釈が分散していてイメージがわかりにくいことに鑑み、デンマークでは、2015年に高齢者に対する介護は身体的自立に再び戻す手法の実施を行わなければならないとする法律が施行されている。これを一般に「リエイブルメントの法制化=再自立支援の法制化」と呼ぶ)に倣って「再自立支援介護(リエイブルメント・ケア)」とあえて呼ぶ)が介護施設及び介護事業所の介護報酬上の評価の最優先事項になったことは青天の霹靂であり、日本では珍しい革命的な出来事であり、介護業界にとっては出会い頭の事故かもしれない。そのためか逆にこの政策展開に正面切って話題とされることが大変少ないことが介護業界就中、経営者にバイアスがかかっている危険な環境と筆者はあくまでも個人の見解として感じている。 特養等における介護報酬の増加への対策を戦略的に準備するためには避けては通れなくなった「再自立支援介護」の手法の施設への導入・浸透・教育であるが、この対応は、実は介護報酬増加のための戦略だけではない。 志ある若い日本人介護人材の新規確保(実は外国人介護人材の確保にもリンクする)と定着のためには必須のテーマになっていることに気づいている社会福祉法人経営者は少ない。その事実と理由については別の機会に譲りたい。