「会計監査人設置社会福祉法人の適用範囲事業高20億円以上の延期の光と陰を経営者はどう考えるべきか」

2019年03月08日

「地域共生社会・ポスト成長時代における社会福祉法人の「公的福祉+民間福祉」経営戦略」

第1回 「会計監査人設置社会福祉法人の適用範囲事業高20億円以上の延期の光と陰を経営者はどう考えるべきか」

 

現在、「社会福祉法人」を取り巻く環境は、社会福祉法人制度改革(平成29年4月1日施行、平成30年4月1日施行、改正社会福祉法)及び、「地域共生社会実現」政策(2021年度から全面展開予定)の2つの山を超えられるのかどうかという経営課題を社会福祉法人経営者に突きつけている状況下にある。

 

平成26年7月4日に公表された「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」報告書は、現行の社会福祉法人制度の抱える諸問題を整理し、今後も社会福祉法人が我が国の福祉の重要な担い手として地域住民、ひいては国民の期待に応える存在であり続けるための改革案の検討内容を網羅的に纏めたものであった。その中から一部を引用する。

『「地域における公益的な活動の推進」、「法人組織の体制強化」、「法人運営の透明性の確保」は、歴史的にこの国の地域福祉の向上を支えてきた社会福祉法人が、時代の変化を踏まえ、今後も福祉の主な担い手として地域住民等から信任を得続けるために必須の事項であり、必ず実施していく必要があるものである。また、「法人の規模拡大・協働化」や「法人の監督の見直し」等は、今後も続くであろう福祉ニーズの拡大や、多様化し複雑化する新たな福祉ニーズの発生に対応するため、 社会福祉法人が「地域における公益的な活動」を柔軟に実施していく上で必要な環境整備に関わるものである。 社会福祉法人制度については、2000(平成 12)年の社会福祉基礎構造改革以降、大きな見直しは行われていない。しかしながら、その後の10余年の間に、社会福祉法人を取り巻く状況は大きく変化し、社会福祉法人制度の意義・役割を問い直す厳しい指摘もされるに至っている。今こそ、社会福祉法人制度に関わる者が自ら率先して改革を行わなければ、社会福祉法人制度は地域住民等の信頼を失い、その未来をも断ち切られかねない。 今後、厚生労働省において具体的な見直し方策を検討していくに当たっては、社会福祉法人制度の置かれた厳しい現実を直視しつつも、その有する潜在力を地域福祉や社会福祉の向上のために最大限活用するという視点に立ち、地方の現場を担う地方公共団体や社会福祉法人と一体となって、社会福祉制度の基盤制度である社会福祉法人制度を早急に見直すことを強く期待する。』

引用した内容の中で特に重要と筆者が考えるのは、「今こそ、社会福祉法人制度に関わる者が自ら率先して改革を行わなければ、社会福祉法人制度は地域住民等の信頼を失い、その未来をも断ち切られかねない」というくだりである。

改正社会福祉法の2段階の施行(平成29年4月施行/平成30年4月施行)により、制度論は終わり、「実践論」に入った。そして、その「実践論」は、決してお上頼みにしてはならない。横並びの「空気」に合わせてはならないと考える。持続可能経営を実現できる社会福祉法人とは、「自立型社会福祉法人」である。それは「自ら率先して改革を行う社会福祉法人」といえる。そして、さらなる成長・進化のイメージは「社会福祉法人と企業・国民との相互依存を実現する社会福祉法人(=民間からの豊富な資金調達を可能とする社会福祉法人)であろう。ちなみに「地域共生社会実現政策」は、この「相互依存型社会福祉法人」が担い手となる。なぜなら、同政策には公的財源は予定されていないからである。

 

そのような考え方を前提として、平成30年11月2日厚生労働省社会・援護局福祉基盤課事務連絡「社会福祉法人における会計監査人に係る調査と 平成 31 年4月の引下げ延期について(周知) 」の決定内容を読まなければならない。ちなみに、「読む」の意味の中には、「外面を見て、その隠された意味や将来などを推察する」や、「囲碁・将棋で、先の手を考える」という解釈もある。文章の表面を読む(文上の読み方)ことに加え、文章の奥底に隠された本質を読む(文底の読み方)ことが必要である。

(以下、事務連絡引用)

「今般、平成 28 年社会福祉法改正による会計監査人の設置を円滑に進めていくため、会計 監査の実施による効果や導入する場合の課題等について、
(1)平成 29 年度の会計監査を実施した全ての社会福祉法人(約 400 法人)を対象とした調査
(2)収益 10 億円を超える法人又は負債 20 億円を超える法人(約 1,700 法人)を対象とした調査を、二段階で実施いたします。このため、法人の準備期間等を考慮し、平成 31 年4月から会計監査人の設置基準を引下げることは行わないこととしましたので、管内の該当法人に周知をいただくようお願いいたします。(関係団体には、厚生労働省から直接連絡しています。) 」

筆者の記憶では、⑴の調査は平成29年度に実施済みとの理解であったが、重複して行うようである(みずほ情報総研による調査報告書)。⑵は新規の調査のようである。何れにしても、調査を実施することにより「平成31年4月から会計監査人の設置基準を引き下げることは行わないこととする」理由にはならないような気がするが、この点は業界団体の努力の賜物であろう。経過措置期間が明記されていないことから「制度改革は骨抜きか?」、「最後は会計監査人監査導入は任意になるのでは?」といった憶測もささやかれている。しかし、この事務連絡の奥深いところは以下の引用箇所である。

「なお、現時点で設置対象となっていない法人で、 (1)自発的に会計監査人を設置されている法人におかれましては、平成 31 年度以降の継続実施をお願いするとともに、 (2)会計監査人の設置に向けて取組を進められ、円滑な導入が可能と見込まれる法人につきましても、積極的に会計監査人を設置いただけるよう周知・働きかけをお願いいたします。 併せて、都道府県におかれましては、貴管内の市(指定都市、中核市を除き、特別区を含む。)に対し、本内容を周知頂きますよう、お願いいたします。」 要するに、業界団体の意向が強いので、事業高20億円以上の社会福祉法人への会計監査人設置の拡大は延期するが、個々の社会福祉法人経営者に対してのメッセージとしては、さっさと会計監査人設置に対応せよ。後から、その意味はわかるから〜ということのように読み取ることも可能である。筆者の関与先の社会福祉法人の経営者はおしなべて法律の強制は無関係に会計監査人設置社会福祉法人化を進めているところが多い。

筆者は、非課税措置と会計監査人設置が近い将来、リンクしていくと予想している。なぜなら、社会福祉法人制度は先祖帰りが予想されるからである。以下に、平成26年7月4日に公表された「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」報告書に記載されている社会福祉法人の過去の姿を引用する。

『社会福祉法人制度が創設された当時の昭和 20 年代、我が国は、終戦による海外からの引揚者、身体障害者、戦災孤児、失業者などの生活困難者の激増という困難に直面していた。これらの者への対応はまさに急務であったが、戦後の荒廃の中、行政の資源は不十分であり、政府には民間資源の活用が求められた。このため、社会福祉事業を担う責務と本来的な経営主体を行政(国や地方公共団体等の公的団体)としつつも、事業の実施を民間に委ね、かつ、事業の公益性を担保する方策として、行政機関(所轄庁等)がサービスの対象者と内容を決定し、それに従い事業を実施する仕組み(以下「措置制度」という。)が設けられた。そして、措置を受託する法人に行政からの特別な規制と助成を可能とするため、「社会福祉法人」という特別な法人格が活用されたのである。』

この歴史・過去の姿のアレンジが「地域共生社会実現政策」なのかもしれない。

アレンジを試みるとこうなる。『少子高齢化の支え手の不足や赤字国債の乱発の累積等による国家財政の困難性から、行政の資源は不十分であり、政府には民間資源の活用が求められた。このため、社会福祉事業を担う責務と本来的な経営主体と事業の実施を改正社会福祉法後の社会福祉法人に委ね、かつ、事業の公益性を担保する方策として、

財務会計の透明性とガバナンス・内部統制の担保としての「会計監査人設置社会福祉法人」による民間からの資金調達による財源と「公的福祉・公共福祉」の2本柱により推進される「地域共生社会実現政策」の全面展開が進められた。』(筆者の加工文章)

事務連絡を勝手に深読みすると筆者はこのように読めるのだが、2万強の社会福祉法人経営者の皆様はどのように読まれるのだろうか。